大阪地方裁判所 平成元年(ワ)7317号 判決 1990年11月15日
大阪市住吉区我孫子四丁目一三番四五号
原告(選定当事者)北野良作
東京都千代田区霞が関一丁目一番一号
被告
国
右代表者法務大臣
梶山静六
右指定代理人
源孝治
同
杉尾襄
同
伊柳諭
同
角佳樹
同
森並勇
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告及び別紙選定者目録記載の選定者に対し、一〇一二万三七〇〇円及びこれに対する平成元年九月二二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
3 第1項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 主文と同趣旨
2 仮執行免脱宣言
第二当事者の主張
一 請求原因
1(1) 北野藤治郎(以下「藤治郎」という。)は、昭和五八年一二月二三日、法人税法二条一〇号に規定する同族会社に当たる北野商事有限会社(以下「北野商事」という。)に対し、大阪市住吉区刈田七丁目八一番一一の宅地(以下「本件土地」という。)を三六〇〇万円で売り渡した(以下、この売買を「本件売買」と、その代金額を「本件売買代金額」という。)。
(2) そこで、藤治郎は、昭和五八年分の所得税につき、これを前提として確定申告をした。
(3) 藤治郎は、昭和五九年一二月二三日に死亡し、原告及び別紙選定者目録記載の選定者(以下、総称して「原告ら」という。)が、藤治郎を共同相続(相続分各六分の一)した。
2(1) しかし、住吉税務署長太田敬紀(以下「住吉税務署長」という。)は、本件売買は同族会社への低額譲渡に当たるとして、本件売買時における本件土地の時価(以下「本件土地の時価」という。)を五六七六万七七八八円と認定した上、原告らに対し、藤治郎の昭和五八年分の所得税につき更正処分(以下「本件所得税更正処分」という。)をした。
(2) そこで、原告らは、本件所得税更正処分につき、昭和六〇年一二月に異議申立てを、昭和六一年四月に審査請求をした。
3(1) 他方、住吉税務署長は、昭和六二年九月三〇日、北野商事の昭和五八年九月一日から昭和五九年八月三一日までの事業年度の法人税つき、本件土地の時価を七〇八〇万〇四八三円と認定した上、本件売買代金額と右認定額との差額三四八〇万〇四八三円を右事業年度の益金の額に算入し、納付すべき税額を一四六〇万〇一〇〇円に更正する旨の処分及び一四一万八〇〇〇円の過少申告加算税を賦課する旨の処分(以下、これらの処分を「本件法人税更正処分等」という。)をした。
(2) 以上のように、住吉税務署長が、藤治郎の所得税額の算定に際し本件土地の時価を五六七六万七七八八円と認定しながら、原告らの同族会社である北野商事の法人税額の算定に際し、これを七〇八〇万〇四八三円とより高額に認定したのは、原告らが本件所得税更正処分について不服申立てをしたことに対する嫌がらせ・報復をするためであって、そのような意図の下でされた本件法人税更正処分等は、違法である。
(3) また、憲法一四条の定める法の下の平等の原則により課税は公平にされなければならないにもかかわらず、住吉税務署長は、本件土地の時価について、個人と法人を別異に取り扱ったものであり、本件法人税更正処分等は、違法である。
4(1) 北野商事は、住吉税務署長が本件土地の時価を七〇八〇万〇四八三円と認定し、本件法人税更正処分等を行ったことに伴い、法人税・一四六〇万〇一〇〇円、その過少申告加算税・一四一万八〇〇〇円、事業税・四二八万七七〇〇円、その過少申告加算税・四〇万五一〇〇円、府民税・八六万七七二〇円、市民税・二一二万五八二〇円の合計二三七〇万四四四〇円の租税債務を負担するに至った。
(2) そして、原告らは、北野商事から、売主は代金以外の負担を買主に与えるべきではないとして、右税額相当額の金員の支払を請求されたので、やむなく、相続分に応じてこれを支払った。
(3) 仮に、住吉税務署長が、本件土地の時価を五六七六万七七八八円と認定して法人税の更正処分及びその過少申告加算税の賦課決定処分をしていたならば、原告らは、法人税・八二五万二〇〇〇円、その過少申告加算税・七八万二七二〇円、事業税・二四六万九三二〇円、その過少申告加算税・二一万八五四〇円、府民税・五二万五一二〇円、市民税・一三三万三〇四〇円の合計一三五八万〇七四〇円に相当する金額の支払をすれば足りたはずである。
(4) したがって、住吉税務署長が、本件土地の時価を違法に多額に認定して本件法人税更正処分等を行ったことにより、原告らは、その差額である一〇一二万三七〇〇円の損害(各六分の一)を被ったことになる。
5 よって、原告は、被告に対し、住吉税務署長の違法な公権力行使に基づく国家賠償として、一〇一二万三七〇〇円及びこれに対する結果発生の日の後である平成元年九月二二日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1、2の事実は認める。
2(1) 同3(1)の事実は認める。
(2) 同3(2)の事実は否認し、同3(3)は争う。
本件土地の時価は、七〇八〇万〇四八三円を下るものではない。
本件のように時期を異にして更正処分を行なう場合、後行処分をなす際、先行処分の根拠等を検討の結果、先行処分より適正な時価額評価の手法が見出されれば、これに従って評価し直すことは何ら非難されるべきではなく、本件所得税更正処分と本件法人税更正処分等において、本件土地の時価について異なる認定をしても、違法とはいえない。
3 同4(2)の事実は知らない。同4(3)(4)は争う。
売買の目的物たる不動産の登記手続に要する登録免許税は別として、それ以外の売買契約に伴う財貨の移転等によって取引の双方当事者に賦課される租税は、民法五五八条の「売買契約ニ関スル費用」に該当せず、一般に右租税を売主が負担すべき法律上の義務は存しない。したがって、原告らが税額相当の金員を北野商事に支払ったとしても、それは、原告らが、北野商事との間で、その自由意思に基づき支払約束をした上、その履行として行ったものというべく、右支払と本件法人税更正処分等とは相当因果関係がない。
4 同5は争う。
第三証拠
本件記録中の書証目録と同じであるから、これを引用する。
理由
一 請求の原因1、2の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、次に請求の原因3について判断する。
1 請求の原因3(1)の事実は、当事者間に争いはない。
2 しかし、成立に争いのない乙第四、第五号証に弁論の全趣旨を総合すると、本件土地の時価は七〇八〇万〇四八三円を下らないものと認められ、住吉税務署長が原告らの不服申立てに対する嫌がらせ又は報復として故意に本件土地の時価を高額に認定して本件法人税更正処分等を行ったことを認めるに足りる証拠はない。
また、住吉税務署長が北野商事に対する法人税の更正処分をするに当たり、その基礎とすべき本件土地の時価が本件所得税更正処分の基礎とした額より高額であることが判明した場合には、更正処分が時価を基礎として行うべきものである以上、新たに適正と認められるに至った時価を基に北野商事に対する法人税の更正処分をするのは当然の措置であり、これによって、北野商事が憲法一四条に違反して不利益な取扱いを受けたことにはならない(なお、本件においては、結果的にみると、本件所得税更正処分において時価の認定を誤っていたことになるので、本来は、誤って時価を低額に算定して行った本件所得税更正処分の取扱いが問題となるというべきである。)。
3 したがって、本件法人税更正処分等を違法とすることはできない。
三 付言するに、一般に、土地の売主には、売却土地の移転登記に要する登録免許税を除き、当該売買に起因して買主が負担するに至った租税を負担すべき売買契約上の義務はなく、北野商事に課された租税を北野商事との関係で原告らが負担すべき特段の事由についての主張立証はないから、仮に原告らにおいて、請求の原因4(2)のとおり、北野商事の負担した租税の額に相当する金額を北野商事に対して支払ったとしても、その支払と本件法人税更正処分等との間に相当因果関係があるということはできない。したがって、本件法人税更正処分等が違法であることを理由に、原告らは、本件法人税更正処分等に基づく損害として、その賠償を求めることはできない。
四 よって、原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田畑豊 裁判官 岡久幸治 裁判官 西田隆裕)
(別紙)
選定者目録
大阪市住吉区我孫子四丁目一三番四五号
北野作二
大阪市住吉区我孫子四丁目一三番四五号
北野カヅエ
大阪市住吉区我孫子四丁目一三番四五号
北野洋子
大阪市天王寺区四天王寺一丁目八番一〇号
石田みつ子
大阪市住吉区杉本一丁目一三番二七号
田中吉子